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受け継ぐこと *里山の暮らし*

静岡県で「里山の暮らし」を営む庄子妙絵さん。ご主人「たっちゃん」やご近所さんたちとの日々の出来事をときどきコラムに綴ってくれています。今回は、受け継がれる着物のお話しです。



カラッと晴れている寒い日の午前中、着物のメンテをしていた。着物を陰干ししたり、長襦袢の襟を付け替えたり。ちくちくと襟を縫いながらふと、あることを思い出す。


ある時実家で母が、「これは植木家の紋よ。」と言って見せてくれたのは、母の色留袖にあった母方植木家の、三つ柏紋。


三つ柏紋:柏餅でもおなじみ、柏の葉っぱ。柏は、昔から食べ物のお皿として使われ、神事用の神木としても大事にされ、神社系の家紋としても使われていたそう。


柏の葉っぱが家紋とは、何だかかわいいな〜^^。



母は篠笛を吹くので、演奏会があるとよく着物を着る。母の母、私の祖母も正装というと、よく着物を着ていた。私も30代を過ぎた頃から「着物」に少しずつ興味を持ち始め、着付けを習い始めた。実家の祖母や叔母、母の年季の入った着物や帯を出しては、素材は何?この柄は何?とあれこれ母に聞く。母は、その着物がどのような着物で、文様や柄にも意味があると教えてくれた。文様にある縁起やたどってきた歴史、そして着物に込められた日本人の美意識を知っていくうちに着物の世界の奥深さに引き込まれていった。


年季の入った七宝柄の螺鈿(ラデン)の帯を眺め、

「おばあちゃん、この帯とっても似合いそう。よく締めていたのだろうね〜。」と、私。


「おばあちゃんが、というよりおじいちゃんがわりと、コーディネートしてたのよ〜〜。」

と、母は教えてくれる。


そして私は、螺鈿について調べる。螺鈿は貝殻の内側のキラキラした光沢の層を貼り付けた工芸品であるということを知る。貝殻の内側のキラキラを貼る。確かに貝殻の内側って七色で綺麗だな〜。それを帯にするとは、何とも粋なこと。着物や帯はまさに、日本各地で脈々と伝わってきた伝統工芸であり、一つ一つ職人さん達が丁寧に作り上げている。ということも徐々に知っていく。


着物について聞くたびに母は、


「この着物は、こんな時に着たのよ〜。」

「この帯は、おばあちゃんがとても好きだった帯で、しょっちゅうしめてたのよ〜」


などと、思い出話をしてくれる。母や祖母たちが大事に着てきた着物や帯がより貴重に大切に感じられ、彼女たちの想いも一緒に、私も大事に受け継いで着ていきたいと思うようになった。そしてその着物や帯がどんな着物かが分かってくると、だんだん自分でコーディネートするのも楽しくなってきた。



左の着物:唐草模様と雪輪のりんずの江戸小紋。たっちゃんのお兄ちゃまの結婚式に着て行った。


唐草模様は、どこまでも切れずに伸びていく唐草が繁栄と長寿を表す。由来は古代ギリシャに生まれ、シルクロードを通って海を渡り、日本に来た模様。


雪輪は、五穀豊穣の吉祥の紋。


実におめでたい、唐草と雪輪という縁起を羽織って、たっちゃんのお兄ちゃまとお嫁さんを祝福する。幸せなご家庭でありますようにという願いを込めて。


右の着物、薄い桃色、青海波(せいがいは)の江戸小紋は父の友人から譲り受けた。


青海波の柄は、「穏やかな波のように日々の暮らしが平穏でありますように」という柄。青海波の起源も古く、平安時代に書かれた源氏物語で、若き光源氏が「青海波」という雅楽を舞う姿が描かれているそう。


青海波に込められた、「日々の暮らしが穏やかな波のように平穏でありますように」という願いも、何とも素敵な願いが込められた柄だこと。父の友人は私にこの青海波の着物を譲ってくださった時、


「私の着物を活かして使っていただけることを嬉しく思います。心を込めて作ってくださった造り手の想いは繋がってこそ命がはぐくまれると考えております。」


と、一筆添えて着物を譲ってくださった。


「心を込めて作ってくださった造り手の想いは繋がってこそ、命がはぐくまれる。」


この言葉が、私の心に響く。造り手の想いと、父の友人や祖母と着ていた方々の想いを受け、私は引き継いでいく。私の中で、大事に丁寧に着ていこうという決意と同時に背筋がシャキッとなるような感覚も覚えた。


着物だけに限らず、これって何でもそうなんだ。私たち夫婦が住む古民家だって、木材や土壁と自然のものだけで職人さん達が100年近く前に造り上げたもの。ここに住んでいた方は永くこの家に住み、里山と何世代にもわたって共存してきた。古民家も里山も、人がいなくなると当然のことながら荒廃してしまう。


人が住み手を加えメンテしながら住み続けることで命は輝き、はぐくまれ、サイクルし続ける。


着続けることで、はぐくまれる。

使い続けることで、はぐくまれる。

住み続けることで、はぐくまれる。




引き継いでいく私は、その想いも一緒に大事に受け継ぎ、大事に繋いでいくのである。あ〜〜受け継いでいくとは、こういうことなんだな〜と、しみじみと感じる。


改めて感謝が湧き、ありがたく頑張って引き継いで行きます、と心から思うのであった。





☆ちょこっとオススメ


着物について知っていくうちに、日本の文様や柄というものにも同時に興味を持つようになり、こんな本に出会った。その名も「日本の文様」



ふと見ると、世の中は実に模様だらけ。その昔、世の中のあらゆるものがまだよく分かっていない時代、心に湧く不安を呪術的な祈りを込め、絵や形の模様にしたことから模様・文様は生まれた。松竹梅、桜、菊と自然なもの。鶴亀、千鳥、鹿などの動物系。カゴメ、格子、石畳などの幾何学模様。

日本人の巡る季節への美意識を表すもの、庶民や貴族の暮らしや様式から生まれたもの、はたまた遠い国から海を渡り伝わってきたものと様々ある。身近で私たちがよく見る文様には、意味があり脈々と伝わってきた歴史背景があった。日本の代表的な文様を、美しい絵と写真で紹介した本。浮世絵の江戸の美女たちが、おしゃれに柄を着こなす姿は実に粋☆。英語訳もついているので、日本を紹介するプレゼントにもおすすめな本です。




妙絵さんが心にも体にも優しい「里山の暮らし」に辿り着いた経緯についてインタビューした記事はこちらです。よかったらご覧ください。「東京&アメリカ生活を経て、里山の暮らしへ」


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