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暮しの手帖 *里山の暮らし*

静岡県で「里山の暮らし」を営む庄子妙絵さん。ご主人「たっちゃん」やご近所さんたちとの日々の出来事をときどきコラムに綴ってくれています。今回は、今も昔も暮らしのおしゃれテキスト「暮しの手帖」クラッシク版についてです。




これは前回書いたコラム、「きん色の窓とピーター」の後日談です。


「きん色の窓とピーター」は影絵作家、藤城清治さんのお話が詰まった絵本で、「暮しの手帖」に長年掲載されていた。そのことを教えてくれた母はさらに、「暮しの手帖は祖母が好きで、家にあったのを覚えている」と教えてくれた。私は、当時祖母が見ていただろうその時代の「暮しの手帖」が無性に見たくなった。


祖母が二十歳で結婚した頃はちょうど、暮しの手帖が創刊された時とほぼ同時期ということが分かった。私はさっそく地元の図書館へ行き、なんと、奇跡的に「暮しの手帖第1号」を借りることができた。




「美しい暮しの手帖 第一号」


まず表紙の絵に心を奪われた。なんと素敵な表紙❤︎ 表紙を描いたのは、編集長である花森安治。


暮しの手帖社を立ち上げた中心人物は、大橋鎮子(社長兼ライター)と花森安治(編集長兼ライター)。 この二人は、肩書きを超えデザイナーとしてもモデルとしても雑誌のあらゆるところに登場する。創刊された1948年は終戦から3年後。まだまだ世の中は、「モノのない時代」であっただろう。と、思いながら年季の入った第一号を少し緊張しながら開いてみる。


見開きのページからグッと心をつかまれる。





これは あなたの手帳です

いろいろのことが ここには書きつけてある 

この中の どれか 一つ二つは

すぐ今日 あなたの暮しに役立ち

せめて どれか もう一つ二つは

すぐには役に立たないように見えても

やがて心の底ふかく沈んで

いつか あなたの暮し方を変えてしまう

そんなふうな これは あなたの暮しの手帖です

「暮しの手帖宣言 花森安治」





着物やかすりをワンピースにするリメイク術を提案している。モデルは大橋鎮子。デザインは花森安治。





「自分で作れるアクセサリー」はカラーページでかわいい〜❤︎





シンメトリーのくずし方。大切なのは色と線のバランスなんだよっと教えてくれる。あるもので工夫してオシャレを楽しもうって思える。





お母様が作ってやれるオモチャページ。


コロちゃんとテッディくん

there are two dogs.

one is tall. one is short.

both are my friends.

my mother made them for me.


型紙付き。これがあれば、作りたくなるね。





コラムのページでは

大橋鎮子自身がさらに「直線裁ち」について丁寧に説明してくれる。


着物の肩から流れる線の美しさを新しい感覚で取り入れた、花森先生がデザインしたのが直線裁ちです。直線裁ちはとにかく簡単。着てみてとても実用的で、何より和服とは違った「イキさ」も感じます。





花森安治も「服飾の読本」というコラムで、おしゃれの基本について教えてくれる。


流行を取りれる前にまずは私たち日本人の体型を知ることは大切ですよ。わけもなく外国の流行りというだけで取り入れるのは、猿真似で美しい感じにはならない。実際の日本人の足の長さと形を考えた上で一番良いスカートの長さを知りましょう。たたみに座ってスカートの裾が緩やかに畳の上に垂れ、膝を覆い隠してくれる程度が一番良いです。





花森安治は、色の組み合わせ方や靴のメンテナンスの方法についても丁寧に書いている。たくさんのコラムが掲載されている中で、祖母が好きだったデザイナー、中原淳一のコラムや川端康成のミニ小説も見つけた。


そして「暮しの手帖第1号」の最後にあるあとがきではこのようなメッセージが書かれていた。


はげしい風のふく日に、その風のふく方へ、一心に息をつめて歩いてゆくような、お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れが続いています。せめて、その日々に小さな、かすかな灯を灯すことができたら、、、

この本を作っていて、考えるのは、そのことでございました。


「S」(おそらくしず子のS)戦争を経て、

「暮しの手帖」という雑誌で世の中を変えたい、暮らしを良くしたい、世の人々に寄り添いながら、という大橋鎮子と花森安治の想いのこもった「暮しの手帖」だということが伝わってきた。


のちに大橋鎮子の自伝を読んだ際、彼女は「毎日の暮らしに役に立ち、暮らしが明るく、楽しくなるものを、ていねいに」をモットーに雑誌が始まったと言っている。


読者であった人たちは、この雑誌を開いて実際に元気付けられ、日々の暮しが明るくなったのかもしれない。私の祖母もきっとその読者の一人であったのだと思うと、私自身も温かい気持ちになった。

そして、祖母のように私も「暮しの手帖」が好きになっていた。


ふと久しぶりに手に取った絵本「きんいろの窓とピーター」をきっかけに、母方の祖母のことを思い出す、私にとってはとても良い時間となった。




☆ちょこっとおすすめ





大橋鎮子さん自身が書いた自伝。暮しの手帖の誕生秘話、広告を載せない理由、こだわりの「商品テスト」への想い、そしておっかないけれど痛快な花森さんの教え。「暮らしに役に立ち、暮らしが明るく、楽しくなるものを、ていねいに」をモットーに始まった暮しの手帖であったが、このモットーこそ大橋鎮子さんそのものな気がする。戦前から戦後、高度経済成長と激動な時代を鎮子さんはいつもたくましく、そして同時にとても優しい人であった。家族や仲間、そして読者に常に同じ目線で優しく寄り添うことをしてきた人。今の時代にも通じる大切にしたいことを鎮子さんは教えてくれる、そんな本です。



ゲストコラムニスト、妙絵さんが心にも体にも優しい「里山の暮らし」に辿り着いた経緯についてインタビューした記事はこちらです。よかったらご覧ください。「東京&アメリカ生活を経て、里山の暮らしへ」



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